個人評価 3.7(見て損はしません!) 映画.com 3.9 Filmarks 3.6(2017/7/31時点)
監督:長井龍雪 脚本:岡田麿里
キャスト(声の出演):水瀬いのり/成瀬順 内山昂輝/坂上拓実・玉子 雨宮天/仁藤菜月 細谷佳正/田崎大樹
先日、フジテレビにて、「心が叫びたがってるんだ」(以下、ここさけ)が放送されていたので見てみました!
ちなみに、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のスタッフが作った作品ということで、ずっと気になってはいたのですが、なんとなく月日が流れ、やっと見たという感じです。(映画って見ないまま何年も経つことよくありますよね…)
今回は、そんな「ここさけ(アニメ版)」の感想を書いていきたいと思います。
※以下ネタバレが入る可能性がありますので、ご了承の上お読みください。
あらすじ
幼い頃、何気なく発した言葉によって、
家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順。二度と人を傷つけないようお喋りを封印され、言葉を発するとお腹が痛くなるという呪いをかけられる。それ以来トラウマを抱え、心も閉ざし、唯一のコミュニケーション手段は、携帯メールのみとなってしまった。
高校2年生になった順はある日、担任から「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命される。一緒に任命されたのは、全く接点のない3人のクラスメイト。本音を言わない、やる気のない少年・坂上拓実、甲子園を期待されながらヒジの故障で挫折した元エース・田崎大樹、恋に悩むチアリーダー部の優等生・仁藤菜 月。彼らもそれぞれ心に傷を持っていた。
担任の思惑によって、交流会の出し物はミュージカルに決定するが、クラスの誰も乗り気ではない様子。しかし拓実だけは、「もしかして歌いたかったりする?」と順の気持ちに気づいていたが、順は言い出せずにいた。
そして、だんまり女にミュージカルなんて出来るはずがないと、揉める仲間たち。自分のせいで揉めてしまう姿を見て順は思わず「わたしは歌うよ!」と声に出していた。
生々しい人間ドラマ|人間
引用元:映画「心が叫びたがってるんだ。」
「ここさけ」を見てやはり思ったのは、「あの花」や「聲の形」で感じた生々しい人間同士の関係です。そこには、本音と建前が存在し、ある時には相手の事など全く気にしない発言をも行う、私たちの現実とまさに等身大のドラマが展開していきます。
主人公である少女、順に浮気をバラされた順の父親が放った言葉「全部お前のせいじゃないか」は、かなり最低だけど、人間らしいなと感じました。人間ってそんなもんだよなとか腑に落ちた自分は、やばいんですかね?笑
このように、あまりにも生々しいため、時に自分の心が締め付けられるような瞬間もあったりします。
何が正しいとか、何が間違ってるとか、良いとか、ダメとか、そんなことはあまりにも曖昧で、人を傷つけないのは、何も喋らないことなのか?それとも本音を全て伝えることなのか?
この映画には、その答えはないかもしれません。
ただし、友情や優しさといった人間の正の部分と嫉妬や怒りなどの人間の負の部分、両面をしっかり描くことで、”人間”っていうものを表現している作品だと思います。
玉子と王子|言葉
引用元:映画「心が叫びたがってるんだ。」
順のお喋りを封印した者として登場する”玉子”の妖精。漢字が”王子”と似ている。そして、声優も順が思いを寄せる坂上拓実と同じです。このことが拓実が呪いを解くキーパーソンとして存在することを序盤から示唆させていました。
順は玉子の”せい”で言葉を失い、王子の”おかげ”で言葉が戻りました。この玉子と王子は、言葉の”せい”で人を傷つけることができる面と、言葉の”おかげ”で人を救うこともできる面、つまり言葉の正と負を表現している存在だと思います。
順にとっては夢であった「お城から王子様が出てくる」ということが、両親にとっては、浮気を示すとは思いもしませんよね。言葉とは、受け取る側の認識により大きく変わってしまいます。順は悪い事を言ったわけではないのに、負に働いたこの例はとても興味深く、言葉の重みと深みを教えてくれました。
「本当に伝えたい想い」を伝えることは難しいですね。
玉子から見えた人間|人は皆、他人のせいにしたい。
私は、この玉子という存在がとても人間らしい存在だと感じました。
あくまで持論なのですが、「人は皆、他人のせいにしたい」というのが本音、または心のどこかにある声だと思います。
例えば、古代ギリシャには自我は存在せず、全ては神の意志として認識していました。それが良いことでも悪い事でも神の意思です。神という存在は、人間の弱い精神の隙間を埋めて、何かが起こった時のために、自己防衛として生まれた存在だと考えます。
個人的に、妖怪ウォッチが流行った理由としても、妖怪のせいにできるということから、子供たちにおける神が生み出されたことで、子供たちが熱狂したのだと考えています。(もちろん他にも緻密なIP戦略が存在するのですが)
つまり、この玉子という存在は、順にとっての”神”だったのではないかと感じたのです。
自分が喋らないのは玉子のせいなのです。起きた悪い事は玉子のせいなのです。
序盤に書いた順の父親の件ですが、ネットでは相当ブーイングの嵐です。たしかにそれは理解できます。最低ですよね。ただ、父親は順に責任を転嫁し、順は玉子に責任を転嫁したのです。
そんな、人間の心理までこの玉子によってしっかり表現されていたのではないかと個人的に解釈しました。
ミュージカルから見えた人間|想い
引用元:映画「心が叫びたがってるんだ。」
この物語において、中心といも言えるのがミュージカルです。
私はラストの2つの歌を同時に歌うという表現が大好きです。これは、初めて見たミュージカル「ウエストサイド物語」において、私が最もミュージカルの力を感じた手法だったからです。
順が心、菜月が本人という設定があることで、人間の多面性が上手く表現されたと感じています。
例えば、目の前で困っている人がいるとします。その時「手助けしないと!」という想いと「でも、今時間無いし…」と思うことがありますよね。人間って常にこのような正反対のことも同時性を持って考えていると思うんです。
今回は、ミュージカルによって、そんな同時に存在する想いを表現しているのだと思います。
↓心が叫びたがってるんだラストシーンの歌 「心が叫びだす」 「あなたの名前呼ぶよ」
↓以下ラストシーン原曲
ピアノソナタ第8番「悲愴」
ピアノソナタ第8番「悲愴」は、ピアノソナタ第14番(月光)、ピアノソナタ第23番(熱情)と並んでベートーヴェンの3大ピアノソナタと呼ばれることもある有名な曲です。
Over The Rainbow
ミュージカル映画「オズの魔法使」の劇中歌です。
ついでに
乃木坂46かわいい。
主題歌「今、話したい誰かがいる」/乃木坂46
まとめ
やはり「あの花」陣が制作する作品は安定して面白いと思います。
特に毎回、ここまで描いても大丈夫なのか?というくらい”人間”というものを見せつけてきます。人間の良い面も悪い面も全て投げつけてきて、全部受け止めろよ!!!と言わんばかりの勢いです。
そして、今回は特に”言葉”の重みを知ることができました。また、思っていることを伝えることの難しさも再認識しました。他人に自分を伝えることができる唯一のツール「言葉」を大切に、すれ違いの無い良いコミュニケーションを取っていきたいです。
あと、実写版「心が叫びたがってるんだ」も今度見に行こうと思うので、その感想は後日アップします!!!